X-MOMENT

ARTICLE 2021.03.26

福岡堅樹(ラグビー日本代表)×ときど(eスポーツ)「日本のeスポーツの新しい未来が始まる」

一昨年日本中を虜にしたラグビー日本代表。4トライを挙げベスト8進出に大きく貢献した福岡堅樹は大のeスポーツファンでもある。そんな彼が日本のeスポーツシーンを黎明期から支えてきた、プロゲーマーときどとeスポーツの魅力、そして未来について語った。

  

text by 福田剛(Tsuyoshi Fukuda)

photograph by Kiichi Matsumoto

 

 

 

――福岡さんはeスポーツに対してどんなイメージを持っていますか?

 

 

福岡 実は僕はゲームが大好きで、大学生の頃はのみりこみすぎて徹夜することもありました。プロになってからも時間を作ってはプレーを楽しんでいます。『PUBG』のような大勢で戦うバトルロイヤル系が好きで、アスリートの中ではかなりやっている方だと思います。だからeスポーツで活躍されているプロゲーマーの皆さんに対しては尊敬や憧れの念を持っていますね。

 

ときど 福岡さんのような方にそう言っていただけると、プロゲーマーとしては本当に嬉しいですね。でも格闘ゲームはやらないんですよね。残念だな(笑)。

 

福岡 格闘ゲームは強くなるためには深い知識が必要だろうなと思っていて、あまりプレーしたことがないんです。ときどさんは1日にどれくらい練習していますか?

 

ときど スパリーング(対戦)相手がどれくらい集まるかによって変わるんですけど、長いときは10時間くらい練習することもあります。ただ最近は長くやるよりも、ぐっと集中して3、4時間で終わらせる方がいいと思うようになってきました。

 

福岡 10時間はすごいですね。僕は一つのことだけに集中するのが苦手で、今シーズンでラグビーを引退して医学部に進みますけど、ラグビーの厳しい合宿に堪えることができたのも、日本で開催される世界大会まではラグビーに専念して、その後は医者の道へ進むと自分で期限を決めていたからなんです。もしラグビーだけだったらここまでの選手になってなかったかもしれないですし、ラグビーをやらずに勉強だけでも医学部は合格できていないかもしれない。二つのバランスをとることでここまでこれたのかなと。だから一つのことだけを極めている、ときどさんのような方をみると本当にすごいなと思います。

 

 

 

――ときどさんは普段から身体を鍛えたり、空手道場にも通われているそうですが、それはどうしてですか?

 

 

ときど 筋トレはeスポーツがいつか注目される時代が来るだろうから、人前に立つことになったときに貧弱な身体だとみっともないと思って始めました。ところが筋力がつくと集中力も持続するようになって、ゲームでもパフォーマンスを発揮できることに気が付いたんです。それ以来、ずっと続けています。空手も最初は体力強化を目的で始めたのですが、今はプレッシャーへの対処がメインになっています。空手のスパリーングは当たり所が悪ければケガをしかねない。そういう追い込まれた状況で、自分が練習をしてきたことを適切に出せるのかどうかというところにこだわっています。昔はゲームの勝敗って、知識や技術の差で決まることが多かったのですが、今はインターネットや動画配信で情報はすぐに世界中に知れ渡ってしまいます。ではどこで差がつくのかというと、メンタルなんです。大きな大会になればなるほど、いかに平常心を保って高いパフォーマンスを発揮できるかどうかが大切になります。

 

福岡 メンタルは重要ですよね。ラグビーでも試合終了まで残り10分、15分まではものすごく競っていたのに、気付いたらすごく点差が開いている試合があります。それは途中で心が折れているからなんです。もう勝てないと気持ちで負けてしまうと、一気に崩れてしまいます。逆にここでプレッシャーをかけて一気に畳みかければ相手は反撃する力が残らなくなるというシーンでは、無理をしてでもトライを狙うこともあります。

 

大舞台でどうメンタルを保つか

――試合前のルーティンはありますか?

 

 

ときど 試合前に舞台袖でダッシュをして一度心拍数を上げてから試合に入るようにしています。ダッシュをするようになったのは、「試合中にものすごい焦っていますね」と人に言われたからなんです。それまでは自分では意識していなかったんですけど、試合が終わった瞬間の自分を客観的に見たら、めちゃくちゃ心拍数が上がっていた。身体を動かすわけでもないのにそんなにドキドキすることはないだろうと普通は思うんですけど、やはりプレッシャーを感じているんでしょうね。これはどうにかしなきゃいけないと知り合いのお医者さんに対処法を聞いたら、心拍数を一度上げて身体を慣らしておいたほうがいいと教えていただいて以来、続けています。福岡さんは何か試合前のルーティンとかはありますか?

 

福岡 試合前のアップが終わってロッカールームに戻ってきたときに、これから本当に戦いにいくんだという戦闘モードのスイッチを入れるようにしています。精神統一じゃないですけど、頭の中で身体の隅々まで意識を張り巡らせ、最後にスイッチを押すというイメージです。これから行くのは戦場だという強い気持ちを込めていかないと中途半端なパフォーマンスで終わってしまうので、戦闘モードのスイッチを押すのがルーティンになっています。

 

 

――いかに普段どおりのメンタルを保つことができるのかが、重要なんですね。一昨年のラグビー日本大会のような大観衆の前では逆に気持ちが入り過ぎることはないですか?

 

 

福岡 気持ちは高ぶりながらも、頭は冷静にというのは常に心がけています。これまで2015年のイングランド大会、そして2016年のリオと大舞台を経験させていただいて、その中で学ばせてもらえたので、一昨年の日本大会では満員の大観衆の声援を力に変えることができました。

 

ときど 僕も同じですね。世界大会になると1万人を超える観客が集まります。でも、これまでに場数も踏んでいますし、他のプレーヤーより年齢的にだいぶ上なこともあるので、むしろ、自分のプレーで会場を盛り上げてやる、という気持ちを持てるようになりました。

 

福岡 その気持ちはすごく大事ですよね。大舞台でこれだけの人が見に来てくれているのだから、ここでいいプレーをすればたくさんの人が盛り上がってもらえる、というのが本当に嬉しいです。大勢の人に見てもらうのがスポーツをやっている醍醐味ですし、プレッシャーを感じるのではなく逆に楽しめるようになったのは大きいと思います。

 

『X-MOMENT』がeスポーツをさらに盛り上げる

――福岡さんはeスポーツを観戦する機会も多いそうですが、eスポーツのどこに魅力を感じていますか?

 

 

福岡 本気で突き詰めると、ここまでできるんだ! というスーパープレーを見ることができるのが一番の魅力だと思います。プロの技の凄さには本当に驚くことばかりです。ゲームを見ているというよりも、スポーツ観戦をしている感覚ですね。ときどさんはeスポーツという言葉が一般的になる前からプロゲーマーとして活躍されていますけど、今の状況をどう感じていますか?

 

ときど 初めて世界大会に出たのが2003年なんですけど、そのときの会場はロサンゼルスの大学の体育館でした。いま思うとそんなところでやっていたの? という感じですけど……。当時はこんな広い会場でゲームができることに感動していました。絶対に次も参加したいと思っていたら、次の大会はラスベガスに会場が移っていました。ただラスベガスとはいっても寂れた郊外。それがさらに翌年になると中心街に近づいて観客が倍になってと、年を追うごとに規模が倍々になっていく。その光景を目の当たりにして、これからeスポーツの時代が来るという確信があって2010年にプロゲーマーになったんです。それが今やラスベガスのメインストリートにある誰もが知っているホテルが会場になり、観客は1万人を超え、世界中に配信されるまでになっています。まさかここまで大きくなるとは思ってもいませんでした。

 

 

福岡 そんな時代があったんですね。ラグビーやサッカーと同じように、プロゲーマーの方たちが世界でも活躍されて結果を出してきたからこそ、日本でもeスポーツが認められるようになったんでしょうね。ラグビーも一昨年の大会で世界を相手にベスト8まで勝ち進んだことで、日本中が応援してくれるようになりました。eスポーツも、世界を舞台に活躍する選手が増えれば、もっと盛り上がっていく気がします。

 

 

 

――さて、3月から日本国内最大級のeスポーツリーグ『X-MOMENT』が始まりました。『X-MOMENT』への想いを聞かせて下さい。

 

 

ときど 日本でもeスポーツがものすごく大きなことになってきて本当にありがたいと思っています。きっとリーグの運営に関係する人の中にもゲーム好きな方々がたくさんいるんだと思うと本当に嬉しいですよね。まだeスポーツという言葉がなかった頃にゲームに情熱を捧げていた人たちの想いを、僕らが受け継いできたことがちょっとでも力になれたのかなと思うと、感慨深いものがあります。『X-MOMENT』がこれからの日本のeスポーツシーンをさらに盛り上げてくれることを期待しています。

 

福岡 プロの戦い方というのは僕らが遊びでプレーしているのとは違い、考えも及ばないような駆け引きや一瞬一瞬の攻防があるので、ゲームをする人にとっては参考にできる部分はあると思いますし、普段ゲームをあまりプレーしない人でもスポーツ観戦をする感覚で楽しめると思います。それをインターネットを通じてライブ配信で観られるのが本当に嬉しいです。プロゲーマーの方には日本中が盛り上がるような熱いプレーをぜひ見せてほしいです。期待しています!

 

 

 

■プロフィール
福岡堅樹
1992年9月7日、福岡県生まれ。5歳からラグビーを始め、福岡高校3年時に花園に出場。筑波大学に在学中の’15年、日本代表としてW杯に出場を果たす。'16年、リオデジャネイロ五輪7人制日本代表としてベスト4に貢献。’19年のW杯では4トライを挙げ日本代表のベスト8の原動力となった。'21年、順天堂大学医学部に合格、今シーズン限りでの現役引退が決まっている


ときど
1985年7月7日、沖縄県生まれ。2010年、東京大学大学院を中退し、日本人2人目の格闘ゲームプロゲーマーとしてデビュー。’17年、世界最大のゲーム大会Evolution Championship Series(EVO)で優勝。世界一に輝く。’18年、カプコンプロツアー年間ポイント1位、’19年には米国で開催された世界大会NorCal Regionals(NCR)2019で優勝を果たした